『門を守るお仕事』のシステムデザイン
――『巣作りドラゴン』との対比において――
『門を守るお仕事』はまさに『巣作りドラゴン』のブラッシュアップだったと考えている。どちらも、生活拠点の戦略的防衛を目的とするターン制SLG。ターン経過は、「1. 防衛施設を設置するコマンド」、「2. 配下ユニットを追加雇用するコマンド」、「3. 敵来襲をコントロールするコマンド(――『巣作り』では侵入者来襲を触発する「街攻撃」、『門』では侵攻誘発から敵軍弱体化までの何種類ものコマンド)」、「4. 個別ヒロインとの交流コマンド(――原則として物語上の作用のみがあり、ゲームパートへの影響は無い)」によって進む。『巣作り』ではここに「結婚」コマンドが加わり、『門』では資金運用ミニゲームや技術開発などの補助的コマンドが加わる。ターンの節目に敵勢力が侵攻してくる場合があるが、その戦闘パートは、敵が侵攻してくるルート上に防衛施設と配下ユニット群を配置して迎撃する(半)オート進行スタイル。そして敵軍を撃退するとボーナスとして資金が得られる。ゲーム進行の長期的展望としては、所持金がマイナスにならないように運用しつつ、配下ユニットを周回育成して、困難な状況を突破していけるようにすること。――ゲームシステムの基本骨格は、ほとんどそのまま踏襲されている。『巣作り』の後継作だと見做すことは十分可能だろう。
他方で相違点としては、以下のような要素が挙げられるだろう。
1)物語。『巣作り』は、結婚のために巣の造営と貯蓄に勤しむドラゴンの物語。『門』は、前線都市に雇用されている傭兵団。前者では明確な積極的目的があるが、後者ではもっぱら期間内の生存が第一義的目標とされている。また、前者には人間族、竜族、魔族たちの文化的特徴や種族間の立体的関係がドラマとして組み込まれているが、後者では一都市内部での社会生活全体が幅広く描き出されている。
2)ゲームバランス。『巣作り』では、ゲーム中盤以降、かなり資金的余裕が出てくる(最終的には、消費しきれないほどに貯まる)し、配下ユニットも侵入者たちを鎧袖一触に退けられるほどの強さになる。ターン数も48*3=144ターンにまで延長される。それゆえ、ヒロインとの交流コマンドにターンを消費する余裕が出てくる。他方で『門』では、まめに資金運用を行わなければ財政は容易に逼迫するし、配下ユニットたちを限界まで育成しきってもしばしば敵軍に押し込まれる。時間的資源についても、最終モードに入るまでは60ターンで強制的にEDになる。戦闘パートの勝敗についても、『巣作り』では最終エリアまで侵入されても資金の一部を奪われるだけである――だから強敵侵入者もいる――が、『門』では正面の門を突破されれば即ゲームオーバーとなる――そのため強大な敵ユニットは最終モードにしか登場しない――という違いがある。
3)ゲームの終了の仕方。『巣作り』では、一定ターン経過後、「結婚」コマンドが追加され、そこでED条件を満たしたヒロインの一人を選んでいつでもEDに到達させることができる。そしてそれゆえ、EDの本筋部分は原則としてヒロイン毎の択一式になる。しかし『門』にはそのような随時終了コマンドは存在せず、必ず60ターンを耐えきらねばならない。ただし、エンディングでは、条件を満たしたヒロインたちのEDエピソードが択一式ではなく加重式で発生する。
全体として、『巣作り』と『門』のゲームデザイン全体を比較するなら、以下のように述べられるだろうか。『巣作り』では、プレイ中程からゲーム進行が経済的にも軍事的にも安定するため、完全オート進行の侵入者戦闘パートは視覚的な楽しみと資金獲得の楽しみを提供するボーナスイベントとなり、プレイヤーは安んじて個別ヒロインイベントに集中することができる。ただし配下ユニットの成長には大きなランダム要素が介在しているため、戦闘パートはけっして単調な反復に終わらない。他方で『門』では、比較的短いスパンに区切られた周回プレイの中で、プレイヤーに対して様々な手仕事の機会を提供する。すなわち、周回毎のユニット雇用から、定期的な資金運用、そして戦闘パートでも「戦術」実行による介入が必要になっている。個別ヒロインイベントと進行させる余裕が出てくるのは、ゲーム中盤以降になってからだろう。そして、配下ユニットの成長パターンにはランダム要素が無く、それゆえ戦闘の累積は確実にユニットを成長させるというリターンに伴われており、ユーザーの手仕事はけっして無駄に終わらない。
このように見てくると、バランスと難易度と異なるものの基本構造はおおむね同一である筈の両作品の間で、ユーザー評価の高低が割れている――そう言われているが、もしそうだとすれば――のは、どのような事情ゆえだろうか。
一つには、ヒロインたちの描かれ方が大きく異なっている。『巣作り』では、様々な種族に設定されたヒロインたちの関係が、非常に複雑な社会的関係の象徴として興味深い仕方で扱われていた。それに対して『門』では、ヒロインのほとんどがすでに主人公(傭兵団の団長)の配下になっている状況からゲームスタートしており、その点がドラマとしての平板さを感じさせたのかもしれない。もちろん、『門』についても、初めからヒロインたちが勢揃いしていることから、ヒロイン間関係の描写の密度が上がっているという美質は指摘されるべきだろうが。
また、戦闘パートに関しても、配下ユニットの種類の少なさはあまり良い印象を与えないだろうし、また、財政面でも戦闘面でも『巣作り』のような爽快感を無くすことになっていたという側面はあるだろう。しかし、ユニットパターンの少なさの問題は、ユニット画像の品質向上とトレードオフの関係にあったのだろうし、爽快感が無くなっているというのは、言い換えれば終盤まで緊張感が維持できるようにゲームバランス(難易度)が調整されているということに他ならない。
その他、あえて疵をあげつらうなら、侵攻してくる敵勢力になまじ名前があるだけに、その反復侵攻が単調に見えてしまったかもしれない(なにしろ、毎ターン毎ターン、同じキャラクターが同じ落とし穴に嵌まって撤退していくのだ)し、ターンコマンドの余裕の無さはヒロインイベントの優先順位をプレイヤーの中で引き下げるように作用してしまっていたかもしれない。『巣作り』のヒロインたちがSHC作品群の中でもトップクラスの人気を博していた――公式サイトの人気投票結果を参照――のと比べれば、『門』ヒロインたちの魅力がいささかくすんで見えるとしても、それは責められるべきことではないだろう。こうしたゲーム全体のバランス取りは、『門』のように多面的な戦略性を表現しようとするSLG作品に際しては非常に難解なものになるだろうというのは、想像に難くない。
ただし、問題なのは、性描写の扱われ方だろう。忌憚なく言えば、『門』のベッドシーンにはまったく魅力が無かった。それ以前の同社作品が持っていたような美質、例えば率直にがっつく主人公の勢い良さや、あるいはヒロインとの「イチャイチャ」ぶり、あるいは閨房の関係を通じて主人公とヒロインとの関係の機微を匂わせていくテキストワークの妙味、そういったものが『門』では見られなかった。例えば、『門』プレイヤーが最初に見るであろうアダルトシーンでは、軍規違反に対する処罰として主人公が職務としてただ淡々とヒロイン(エレナ)を蹂躙する。あのイベントは、私の知るかぎり、アダルトゲームの中で最も味気ないベッドシーンの一つだった。作品内でもけっして小さくないウェイトを占めているアダルトシーン群を、作品内に適切に位置づけることに失敗しているという点。私見では、本作最大の問題はここにあった。このような、アダルトシーンを中心とした、ヒロインたちを処遇する手つきの不味さを別にすれば、私自身は『門』を高く評価しているのだが――『巣作り』の基本構想をアレンジしつつ、新たな状況のシミュレーション表現を提示することに成功した、近年の同社作品群の中でも出色の一本として評価しているのだが。
そして、ユーザーにとって『門』が『巣作り』のブラッシュアップだとは感じられないのだとしたら、完全に『巣作り』の枠を破って独自の作品たり得ているという意味で、それは間違いなく『門』のゲームデザイン全体の成功を証立てるものだろう。
(2012/11/26公開。2013/05/15単独記事化)
0 件のコメント:
コメントを投稿