2012年8月15日水曜日

アダルトゲームにおける被服表現についての私見

  アダルトゲームにおける被服表現についての私見。


  現在のアダルトゲームで支配的な着彩スタイルは、1)比較的彩度の高い様々な色彩を画面内に共存させるのに適しており、2)そこに美少女ゲーム特有の要請として華やかな艶(誇張された肌つやや頭髪の「天使の輪」表現)を盛り込みつつ、3)制作過程においてはマスプロを可能にする(つまり個人の特別な資質に依存しないようにノウハウが共有され、かつ、過大な手間が要求されず比較的効率的に制作できる)、という形で合目的的に洗練されてきたものだと思うが、しかし私見では、そこではしばしば服飾表現が――とりわけ生地の質感表現が――後回しにされてきたように見受けられる。制服でもスーツでも和服でもエプロンドレスでも水着でも、どれもべったりとした平板な彩色の上に単純な陰影処理が施されている程度であって、本来(現実であれば)存在する筈の布地の特徴――繊維素材の性質とテキスタイルの個性――はほとんど見出すことができない、あるいは、あえて言うなら、硬くて通気性を欠いた合成素材のようにすら見える。このような状況をもたらしている原因としては、男性向けの萌え分野フィクションに特有の文化的事情から、制作上の優先度(服飾表現への投資は劣位に置かれがちであろう)という経済的事情、そして解像度や色数限界といった歴史上-環境上の事情に至るまで様々なものが考えられるが、いずれにせよそれらを最適化した結果としてこの現状があるのだろう(――私見では、縷々指摘される奇抜制服の蔓延も、おそらくこれらの事情と関連した現象である)。

  それでは、この分野では服飾表現は存在しないのか、そしてその改善は望み得ないのか。どちらに対しても、否と答えることが出来るだろう。すでに下着の質感表現は十分な注目を集めるようになっており、そしてそれは(美)意識のレベルでも技術のレベルでも――つまり着彩様式全体のすり合わせという観点からも、着彩ノウハウの応用という経路からも――服飾表現全体に広がっていくことが期待できる。立ち絵の品質向上要求も、これを強く後押ししていくだろう。他方で個々のクリエイターによる挑戦と労力と技巧開拓についても、多くの優れた成果を指摘することができる。すなわち、MIN-NARAKENの先駆的業績を初めとして、CARNELIAN(『きると』)、さえき北都(服飾デザインと緻密な皺寄り表現)、杉菜水姫(『殻ノ少女』では白色制服に挑戦しそして成功を収めた)、そしてCUFFS(なかんずく『ヨスガノソラ』)やelfの丹念なグラフィックワーク、あるいはHOOKSOFTやnoesisでのチェック柄多用、等々。もちろん、擬似写実的説得を目指すのではなく美的説得を目指すアプローチ(LittlewitchやLiar-soft)や、アニメ塗りによる様式借用の途(FAVORITE、ケロQ、OVERDRIVE、アドリブ)も大きく開かれている。PCゲームの服飾表現は、期待する価値がある。

  (論旨を煮詰めないまま書き出してみたら、案の定、方向性を見失ってひどいことに……反省。似たようなことは以前にも書いたのだが。cf. [ http://twilog.org/cactus4554/date-110305 ] PC環境との関係――画面解像度やアンチエイリアシングとの整合性など――も問題になっていると思われるが、私にはここで十分な検討を行えるだけの知識が無い。あと、液体の質感表現もすごいところはすごいよね。名高い『スタープラチナ』のドットワークまでは遡らないとしても、ま~まれぇど[『らぶ2Quad』]とかは有名だろうし。)

  (2012年8月7日:雑記欄にて公開。同年8月15日:単独記事化)

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