2013年5月15日水曜日

多層的テキスト表示についての覚書

  多層的テキスト表示についての覚書
    ――キャラ名キャプション、擬音表示、エピグラフ、ポップアップ――


  おそらくここ数年のことだと思うが、主要キャラクターの初登場時に、そのキャラクターの名前や肩書をキャプション(あるいはテロップ)的に表示するタイトルに何度か出会ってきた。キャラクター要素を強調するうえで、あるいはキャラクター相互の関係をあらかじめ示唆するという意味で、非常にあからさまなものではあるがしかし一定の有効性はあると思われる。私の知るかぎりでは『うたわれるもの』(2002)、『プリンセス小夜曲』(2005)、『南国ドミニオン』(2005)などが早期の実例であるが、頻繁に見られるようになったのはごく近年のことだと思われる。
  しかも、キャプション情報の扱いもそれぞれに異なっている。例えば『とらぶる@すぱいらる』(2010)は名前表示の下にキャスト表示も行うという、目を剥くような大胆な――天然か?――使い方をしている(――例えば、「早乙女凛子(CV:香澄りょう)」という二行が、キャラクターの傍らに表示される)。『えむぴぃ』(2007)が同じ表示形態を採った時は、明白に楽屋オチギャグの一種として受け取ることができたが(――なお、『えむぴぃ』の制作チームが後にリリースした『すてぃーるMyはぁと』[2010]も、キャラクター名キャプション表示を行った)。また、戦国大名転生ものの『桜花センゴク』(2012)は、「第六天魔王女 織田信長ちゃん」や「学園一の出世娘 木下藤吉郎ちゃん」といった二つ名付きの名乗りを荒々しい筆書きで表示して、物々しげな雰囲気をもたらしている。同様に、潜水艦内を主要舞台とする『蒼海の皇女たち』シリーズ(2008/2009)は、戦争ものらしく階級を併記する形でキャラクター名表示を行った。例:「ノーデンフェルト海軍中尉/先任将校 スティア・ノール」。肩書表示に意味があるという点は、『てとてトライオン!』(2008)の生徒会の面々にも当てはまる。

  ややテクニカルな方法としては、辞書モードを搭載している作品で、キャラクターが初登場した際に「(キャラクター)が辞書登録されました」といった趣旨のテロップを出すタイプもある(――たしか『Scarlett』『斬死刃留』などがこういう形態だった筈)。あるいは、SLG作品でキャラクター加入時に特殊な形でキャラクター表示を行うのも、そのセンスにおいてこれらと通底していると言えるだろう。一例として『英雄*戦姫』(2012)では、新規キャラクター加入時にそのキャラクターの立ち絵を大写しにしつつ、メッセージテキスト(例:「ヤマトタケルが邪馬台に加わった」)とそのキャラクターの一言台詞(例:「よろしく頼む」)が出力される。
  いずれにせよ、こうした非正統的な文字表示――脚本家によりメッセージウィンドウ内に書き出されるテキスト以外の様々な情報出力手段の開拓――について、私は好意的に見ている。『桜花センゴク』に至っては、キャプション書き換えギャグすら敢行しており、そこには『奥巫女R』の話者欄書き換えギャグと同根のセンスが見出された。
  ALcotやキャラメルBOXもこの手法を用いていた…ような気がしたが、手持ちのスクリーンショットでは確認できなかったので、記憶違いかもしれない。Liar-softのどれかにもあったような……。『とり×とり』とか『ひめしょ!』はどうだったかなあ。Terralunar作品にもあったかも。個別に振り返ってみると、かなり以前からも行われていたかのような気がしてくるが、おおまかな体感としてはここ3~4年での新しい試みだという感触がある。実際にはどうなのだろうか。PCゲームを大量にプレイされているマイスターの方々に伺ってみたいところだ。こういうマイナーな問に対しても即座に二桁のタイトルを挙げつつ強固に確立された展望を示すことが出来るようなゲーマーも、きっとたくさんいらっしゃるに違いない(――なお、これらと同じ形態のものは、他分野はもちろんのこと、PCゲームにおいてもデモ/OPムービーという形で00年代初頭からずっと行われてきたものではあるが、しかしそれを本編内で行うかどうかはAVGの様式感覚それ自体を左右する大きな相違を意味する)。

  擬音文字などを画像形式で表示するタイトルもいくつか存在する。Terralunarの『しすたぁエンジェル』『らくえん』、『おいしい魔法のとなえかた。』、『大統領』(ごく一部のカットインのみ)、『JK交姦』(cf. [tw: 96401382206214144 , 96575784852008960 ])、『オタカノ』など。ApRicoTの『DEEP VOICE』『Maple Colors』と、最近では『ヤバい!闇サイト』にも、テキストが印象的な仕方で浮かび上がる演出がある。
  (cf. [ twilog.org/cactus4554/date-100820 , twilog.org/cactus4554/date-110530 ])

  ユニークなテキスト表示としては、『恋神』(2010)がある。本作の中盤イベントで、オモイカネ神の力により、人々の内心の思考が頭上にポップアップしてしまうようになる一幕がある(――作中では「タグ事件」「タグ騒動」「オモイカネ騒動」などと呼ばれる)。ここでは、キャラクターたちの思考タグが、フキダシテキストボックスのように、実際に立ち絵の上に画像として出現する。ただし、主人公自身の思考タグは、主人公には見えず、そしてそれを反映して、プレイヤーにも見えない(、つまり画面内に出現しない)。

  PCゲーマーに最も良く知られている特殊文字表示は、開始冒頭等に現れるエピグラフ的テキストだろう。これらは通常、メッセージウィンドウを伴わず独自フォントで(実際に画像データとして)表示され、またしばしば強制オート進行で表示される。バックログには記録されていないのが普通である(――特別の処理を施して、エピグラフの文面もバックログに反映させるようにしているタイトルも存在するが)。

  SLG作品のゲームパートにおいては、ポップアップによるテキスト表示が時折行われる(特にヘルプテキスト)。文字表示を伴わず音声出力のみで特定のメッセージを伝達してくるのも、通常の事態である。例えば攻撃時台詞、被ダメージ時台詞などが代表的である。AVG作品においても、ポップアップ形式によって通常のゲーム進行とは異なる層でのテキスト表示を行う場合がある。ヘルプテキストや、注釈(辞書)テキストなど。


  (2013/03/29公開。2013/05/15単独記事化。)

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