(7)音響演出、とりわけ効果音について
『この青空に約束を―』(戯画、2006年)も、場面毎のアドホックな演出を様々に試みている。背景画像の操作、文字表示方式の切り替え、降雨や桜吹雪のエフェクトなども指摘できるが、なかでも効果音(sound effect: SE)による音響上の演出こそは、私見では本作最大の特徴である。テキストと画像と音響とを縦横無尽に活用した多層的立体的な描写術は、同じライター(丸戸史明)が企画から手掛けた『ままらぶ』(HERMIT、2004年)と並んで、AVGにおける音響利用の卓越した実例となっている。このほか、効果音を活用した描写に関しては、TerraLunar、pajamas soft、ApRicoT、『Like Life』、『雪影』(Silver Bullet、2006年)も優れている(――音響演出については4章4節2款も参照)。
【追記コメント】
SEの使い方についても、教科書的に分類してみることはできるだろう。1)VFX相当の非写実的な効果音。例えばツッコミ台詞と合わせた「スパーン!」(ハリセン打擲音)とか、激怒と合わせた「メラメラ」(怒りの炎)とか。2)具体的なアクションを描写するための写実的効果音。電話呼び出し音など、"実際に"鳴っている(ことになっている)音そのもの。虚構表現においては(例えば誇張的な殴打音など)では、写実と非写実の境界は曖昧になるが。3)アクションではなく状況/舞台/場面を表現する効果音。蝉時雨や雨音などの環境効果音がメインと思われる。4)副音声型効果音。――といった感じになるだろうか。ただししかし、こんな分類だけでは、AVG表現の中での効果音の地位及び機能をよりいっそう深く突き止めることには寄与しないだろうしAVG表現に対する新たな思考を触発するとも思えない。交通整理にも巧拙の違いは――そこに含まれるポテンシャルの違いは――あって、そしてこの程度では必要な水準に達していない。そもそも、効果音はゲーム表現要素の中で従属的地位にあると見られがちなものであり、基本的にはその都度の場面の都合から演繹して――つまり効果音の側から見れば無原則的場当たり的に――必要とされ制作されることになるものであろうから、それゆえそれ単体での自律的な体系的展望を持つことが困難なのであろうが。
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