《第1節:アダルトシーンでの演出》
アダルトシーンがPCゲームにおける表現技術の発展を強力に後押ししてきたことは疑いない。古典的な表現として、「(絶頂時の)フラッシュ演出」や「ズーム(局部拡大)」は現在でも用いられている。その他にも、画像処理に関しては、「カットイン(例えば局部拡大図や挿入断面図)」、「男性身体の(半)透明化(つまり女性の身体が遮蔽されないようにする)」、「テキストウィンドウに遮られないような構図の追求」、「CG差分の大量化(による描写の精緻化)」、「体液量の誇張的増加(による視覚的強調)」、「各種隠蔽技術(モザイクのかけ方)の模索」など、目的に応じた様々な表現技巧が試みられている。3章3節で述べたアニメーション表現も、これら無数の試行錯誤の中の一つ――最も重要な一つ――として位置づけられるだろう。
音響面では、例えば「効果音の強化(水音、うちつけ音)」、「バックグラウンド音声(BGV)」が開発されている。さらには、例えば「かぐや消し」と俗称される特異な伏せ字音声技法をも発達させてきた。テキスト面では、「アダルトシーンではテキスト表示方式や叙述視点を変更する」、「実況台詞(に代表されるテキストワーク上の案出)」(註16)など、煽情性を促進するために様々な技術と技法が試みられてきた。さらに、「シーン回想モードの設置」、「コンフィグによる選択肢事前固定(いわゆる中/外選択など)」、「各種の特殊コンフィグ(隠蔽方式選択、ヘアon/off、仮性on/off)」といったシステム面での補助機能も広汎に普及している。擬音等の視覚表示を追求した作品も現れており、ゲーム性やインタラクティヴィティを導入する試みもある(註17)。中には「女体クリック」のように現在ではほぼ廃れた技法もあり、「男性局部の空中浮遊」のようにややもすればプレイヤーの微笑みを誘いかねないものもあるが。
註16) AVGのアダルトシーンに特有のテキストワークについては、「エロゲシナリオライターそのだまさきのエロゲとエロゲ以外の日々」に有益な記事がある。「エロシーンを書くにはイメージが大事」、「いぐぅなエロシナリオを書くための3つのポイント」など、アダルトシーン描写の基礎的様式について、実作者の立場からの啓発的な解説がある。『碧ヶ淵』(ネル、2004年)、『AYAME ~人形婬戯~』(LiLiTH Mist、2006年)、『戦乙女ヴァルキリー2』(ルネ、2008年)等の作品において継続的にすぐれた成果を挙げてきた作家の言葉であるだけに、高い説得力がある。 註17) 擬音表示の例としては、『おいしい魔法のとなえかた。』(C:drive.、2007年)。インタラクティヴィティに関しては、例えば『M×S』(abogadopowers、2003年)には体力パラメータ変動を伴うゲーム性があり、『SEXFRIEND』(CODEPINK、2003年)にも「DELDELシステム」と称する興奮度変化がある。『Queenボンジョルの!』(G.J?、2006年)は「射精ボタン」による自由な進行制御を可能にしている。アトリエかぐや(Berkshire Yorkshireブランド)も、作品毎に「汁ゲージ」や「昂奮度メーター」といった様々なシステムを試みている。そしてとりわけBISHOPが、システムの拡充に継続注力している(――後述する「ぬぎぬぎシステム」のほか、イベントプレビュー機能、視点位置切り替え機能、「絶倫メーター」「けだものゲージ」等の興奮度ゲージシステムの採用、ON/OFF可能なカットインCG、入手アイテムによるイベントヴァリエーション、「いつでも発射システム」、「デュアルボイスシステム」など)。 |
【追記コメント】
この分野のPCゲームのアダルトシーンにおけるテキストワークは、基本的にどれも――その最も一般的なスタイルの文体それ自体も当然含めて――他分野ではあまり見られない特殊なものであると思われるが、なかでも特徴的なのは、triangle流の「ヒロインによる実況台詞」と、『姫騎士アンジェリカ』(シルキーズ、2007年)流の極端な誇張台詞の2種類であろうか(――ちなみに、いわゆる「みさくら語」も後者に近いが、みさくら自身がライターとして参加した商業作品は
この4章の最初の三つ(性表現要素、ゲーム的要素、物語及びキャラクターの要素)は、この分野で注目される三大基本要素といえるだろう。
アダルトシーンに関わるシステムの練りこみについてはCLOCKUPがいろいろ頑張っているらしいが、実際にプレイしていないのでコメントできない。参考までに、『euphoira』(2011年)のシステム紹介ページにリンクしておく(※注意:リンク先にはアダルト画像が含まれる)。
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