《第1節:立ち絵演出》
立ち絵を用いた演出操作には、以下のようなものがある。(a)立ち絵の差分切り替え。すなわち、立ち絵画像の表情差分やポーズ差分を適宜切り替えることで、その都度の身振りや状況表現を精緻化する。連続切り替えによって複雑な振り付けがなされる場合もある。(b)立ち絵アクション。すなわち、立ち絵画像に対して回転、拡大縮小、移動といった動的変化を行わせることによって、その人物の身体動作、感情変化、登場/退場などを表現するもの。(c)立ち絵の空間的演出。すなわち、側面立ち絵や背面立ち絵を用いることによって、あるいはサイズの異なる立ち絵画像を使い分けることによって、登場人物相互の位置関係等を表現するもの。(d)立ち絵アニメーション。例えば目パチ口パクを、立ち絵画像に付加するもの。(e)その他、例えば立ち絵のフレームイン/アウト時の演出的処理、あるいはデフォルメされた立ち絵を使用したり画像立ち絵に各種エフェクトを付加したりする手法など。ただし、(d)及び(e)については次節で扱うものとし、本節では主に(a)(b)(c)の要素に着目する。
(1)ういんどみるにおける立ち絵アクション
立ち絵アクション、すなわちスクリプトによる立ち絵の動的演出に関して最も先駆的とされるのは、『結い橋』(ういんどみる、2002年)であろう。スクリプトによる立ち絵の動作表現の文法的基礎は、『結い橋』が一息に作り上げたと言っても過言ではない。たとえば、首肯や挨拶を示す上下動、否認を示す左右振動(ただし喜びを示す場合には緩やかなスウィングとなる)、驚きを示す瞬間的な飛び上がり、不満や落胆を示す下方移動、等々。
このブランドの方向性は、CatSystem2エンジンの下で、『はぴねす!』(2005年)及び『ツナガル★バングル』(2007年)においていっそうの発展を見るに至っている。これらの作品においては立ち絵振り付けは、その都度のキャラクターの動作や感情を表現するだけでなく、現代AVGの基本構造の中に深く根を下ろした必須的表現要素となっている。とりわけ、複雑化した視覚表現の中にあって、立ち絵差分切り替えは個々の台詞の話者を識別させることに大きく寄与することになるという点において(註7)。
註7) 「散録イリノイア」内の記事「『今、誰がしゃべっているのか?』のエロゲ的表現の分類と考察」、「とおくのおと出張版」内の記事「立ち絵の変化と声について」を参照。 |
【追記コメント】
立ち絵の基本的性質または立ち絵演出の機能に関する主要な記事として、web上に以下のものがある。ブログ「萌え理論Blog」の一連の記事「ノベルゲームにおける立ち絵と一枚絵の表現」、「ノベルゲーム演出の立ち絵と一枚絵での違い」(2・3・4)、「ノベルゲームにおける立ち絵の時間性」。ブログ「えきのかくたす」の立ち絵演出考察記事(1/2)。ブログ「モルガン・ル・フェイク」の記事「エロゲにおける立ち絵と顔と身体」。ブログ「萌屋本舗」の記事「エロゲのパッケージング ~スクリプトの重要性~」。
ライター高橋直樹のブログ記事にもいくつかの重要な示唆があるが、残念ながら現在は非公開設定になっている:[ http://d.hatena.ne.jp/NaokiTakahashi/20060914/p2 , http://d.hatena.ne.jp/NaokiTakahashi/20050603 , http://d.hatena.ne.jp/NaokiTakahashi/20050806#p2 , http://d.hatena.ne.jp/NaokiTakahashi/20050904#p2 , http://d.hatena.ne.jp/NaokiTakahashi/20070915/p3 , http://d.hatena.ne.jp/NaokiTakahashi/20080101/p2 ]。
本文ではうまく組み込めなかったが、立ち絵連続切り替えによる振り付けも重要である。同様に、他の登場人物(例えばプレイヤーキャラクターである主人公)の台詞の際に画面内のキャラクターの立ち絵を変化させるのも、テキスト内容とは独立の次元での表現という意味で指摘されるべきだろう。もう少し考えを練り直してこれらに関する一節を設けておきたい。
こう書きはしたけど、註7で示唆されているような見解にはあまり賛同していない。妥当するとしても、かなり限られた範囲でしかないだろう。
0 件のコメント:
コメントを投稿