CROSSNET(とりわけTOMA監督のApRicoTブランド)もまた、システマティックな画面効果を追求し実現してきた先駆け的存在である。『DEEP VOICE』(2001年)及び『Maple Colors』(2003年)は、まさにLittlewitchの勃興と同時期の作品である。『DEEP VOICE』においては、効果音(SE)による様々な描写及び演出を試みつつ、同時にフォーカシング演出や立ち絵の目パチ口パクが積極的に導入されていた。そして『Maple Colors』は、フォーカス表現や目パチ口パクを再度実行しつつ、さらに大量のグラフィクス(画像素材)を粘り強く繋ぎ合わせていくことによって動画的印象に肉迫するものであり、映像志向の演出意識を濃厚に表出する力作となっていた。
『AYAKASHI』(2005年)は、これら先行作品の成果をさらに深化させ、明確な演出意識の下で様々な演出技術を効果的に使用している。なかでもバトルシーンにおけるヴィジュアルエフェクトの数々は、映像作品を連想させる目まぐるしいカット切替え演出に相伴われて、ほとんどアニメ作品になる寸前の水準にまで到達している。のみならず、超能力表現の各種エフェクト、降雨や桜吹雪のアニメーション、SEによる状況描写、あるいはSE的な音声使用、頻繁なカット転換、カメラ移動とフォーカス移動、立体的立ち絵表示、目パチ口パク、フラッシュバック演出、そしてウェイトによる「間」の表現に至るまで、その貪欲で野心的な掘り下げはあらゆるところで行われており、2008年現在においてもなお、最も意識的で最も徹底的な表現を持つPCゲーム作品の一つに数えられている(註9)。
註9) CROSSNETでは、水間ホシひとディレクターのFavoriteブランドの画面演出も優れている。『ウィズ アニバーサリィー』(2006年)及び『はっぴぃ☆マーガレット!』の演出様式は、上記ApRicoTブランドと異なるが、Favorite View Point Systemエンジンの柔軟な画像表示能力を生かして、立ち絵の立体的配置(異なるサイズで表示することによって奥行きを表現する)、立ち絵の動的操作(多数のキャラクターが様々な仕方で小気味良くフレームイン/フレームアウトする)、背景画像のなめらかなカメラ移動及びフォーカス操作(立ち絵操作と連動しつつキビキビと変化していく)、各種エフェクトなどを駆使している。その執拗なまでの画面スクロールは映像的カメラワークを強く意識させ、それゆえいわば長回しカットを見ているような臨場感がプレイヤーに印象づけられる。「環境効果音」の使用も、聴覚上の場景表現としてきわめて興味深い手法であり、実際にも高い効果を挙げている。そしてこれらの技術によって、華やかで活気溢れる多人数会話の様子がのびやかに活写されている。AVGの表現空間のトータルデザインに関しては、ApRicoTブランドに比肩すると言ってよいだろう。 後日追記。2011年現在、ApRicoTとFavoriteは株式会社CROSSNETから独立してそれぞれ別個の会社に属している(――ApRicoTは有限会社コミック、Favoriteは有限会社フェイバリット)。 |
【追記コメント】
リンク:Erogos公式サイトの被写界深度表現についての紹介ページ(※リンク先サイトにはアダルト画像を含むページへのリンクが含まれる)。現物をきちんとプレイしていないので、内容上の論評はできない。
リンク:ブログ「ポメラニアン・ナウ」の記事「エロゲのアニメ的演出について考えてみた」及びその追補記事は、AVGのアニメ的表現への接近について述べている。ブログ「2nd ROUGH」の記事「ゲームとビジュアルシーン」は、2004~05年当時における『Fate/stay night』及び『AYAKASHI』に対する受容及び評価のあり方を証言している。
0 件のコメント:
コメントを投稿