2011年9月28日水曜日

演出論的覚書:Ⅳ章2節3款:AVGとSLGの複合演出。ソフトハウスキャラ

  (3)AVGパートとSLGパートの複合演出:ソフトハウスキャラ

  ソフトハウスキャラ作品のSLGパートも、しばしば演出的性格を併せ持っている。『巣作りドラゴン』(2004年)の迎撃戦闘(システマティックな多対多戦闘)しかり。『Dancing Crazies』(2005年)の戦闘パート(多対多戦闘の擬似リアルタイム戦闘)しかり。『Wizard's Climber』(2008年)の実践戦闘(部分的介入の可能な高速オート戦闘)しかり。いずれも、SLGパートとしてゲーム性の機能を担うと同時に、場景描写を行う視覚的精緻化の機能をも担っている。『海賊王冠』(2001年)及び『真昼に踊る犯罪者』(2001年)のカード戦闘の小気味良い視覚的演出も、『ブラウン通り三番目』(2003年)が店内風景を各種チップアニメによって表現しているのも、紛れもない技術的演出手段である。さらに『南国ドミニオン』(2005年)及び『グリンスヴァールの森の中』(2006年)に至っては、狭義のゲーム的性格(=目的追求的要素)を後退させて、シミュレータ的性格(=環境ソフト類似の、無目的な遊戯性)へと接近しているほどである。

  SLG+AVGの複合構造の最良の成果においては、AVGパートの描写とSLGパートの描写とが相補的な世界説明として一貫した表現空間を作り上げているのを見出すことができる。『巣作りドラゴン』がまさにそれであり、ここではAVGパート(状況設定)がSLGパート(システム)に対して裏付けを与えつつ、SLGパート(戦闘描写)がAVGパート(ストーリー)に対して視覚的描写を提供している。

  ソフトハウスキャラ作品は、AVGパートの画面演出に関してはいずれも比較的簡素であり、立ち絵パターンにしても大半が固定ポーズである。しかしそのSLGパートを「(AVGとしての)演出」の観点に取り込むならば、同社作品の総合的な演出密度は十分評価に値する(註19)。SLGとAVGとは、なんら対立的なものではない。

註19) ソフトハウスキャラは、全作品が内藤騎之介の企画主導の下に制作されている。同社各作品に対する紹介的概観は、拙稿「リメイクの時代を超えて――ソフトハウスキャラ作品史小論」を参照。とりわけ『巣作りドラゴン』に関する分析の詳細は、「リメイク」論8章1節d号を参照。また、SLG一般が有する表現上の特質についての検討は、拙稿「リメイク論 補論:『王賊』について」の2節c号の註及び3節b号の註を参照。
  ソフトハウスキャラ作品のAVGパート演出については、以下のものが挙げられる。『葵屋まっしぐら』(2000年)では花吹雪や降雪の表現。『うえはぁす』(2000年)や『ブラウン通り』においては、メインヒロインの立ち絵パターンの豊富さ。『アルフレッド学園魔物大隊』(2002年)や『LEVEL JUSTICE』(2003年)では、モブ立ち絵を大量表示するユーモラスなシーン。『真昼』では同一の画像素材を用いた変装者表現。『ブラウン通り』『王賊』(2007年)には、立ち絵の極端な拡大表示によってキャラクターが主人公に詰め寄る様子を表現した箇所がある。『王賊』プロローグにはデフォルメCGのカットイン表示もある。『DAISOUNAN』(2009年)に関しては、チップアニメによる視覚表現面の強化、立ち絵ヴァリエーションの増加、そして立ち絵の動的演出(キャラクターが強風に吹き飛ばされる)が指摘できる。『忍流』(2009年)では、顔アイコンのみによる幕間会話のスタイルが特徴的である(――これはSLGパートとAVGパートとの様式的ギャップを縮めるための処方と捉えることができる)。
  さらに、テキストワークに関しては「(長い話)」演出が特徴的である。長大な台詞が、テキスト上は「(長い話)」とのみ書かれて省略されているが、その省略された台詞が音声上ではすべて語られているというものである(――テキスト表示面の技術的節約であるとともに、読み手の微笑を誘う話芸でもある)。同種のものは『らくえん』『もしも明日が晴れならば』『ゆのはな』PULLTOP、2005年)等にも見られ、「ぶつぶつ」あるいは「(以下略)」といったテキストの背後で何百字分もの長台詞が音声出力されている。




  【追記コメント】

『巣作りドラゴン』 (c)2004 ソフトハウスキャラ

  SLGパートで店舗系施設を設置してある場合に発生する幕間イベントの一つ。左記画面はバックログを開いた状態のもの。

『しすたぁエンジェル』 (c)2002 Terralunar

  こちらも長大な「(中略)」台詞の例。


  上記『巣作りドラゴン』の「(長い話)」台詞は、音声上では:
「簡単に言うと……常連客を作るつもりなら多少の損失を覚悟してもニーズに応える方がお得だけど、次にいつ来るか分からないお客さんばかりを相手にする場合は材料を無駄にしない方がお得なの。一日の販売量を、完売すれば利益が出る数で固定し、リスクを極力減らすってことね。幸い、人気は上々だから、数が出るのは予想できるわよね。後は、ワッフル作りを確実に行い、失敗作を作らないことが大事ね。下らないミスでの損失は痛いから。……だいたいこんな感じだけど、解った?」(下線部は中略箇所)
となっている。この発言をしているキャラクター(クー)のキャストは、春野さつき。

  上記『しすたぁエンジェル』テキストは、音声上では:
「ちなみにMシリーズは3ラインあって、わたしはそのなかでは大文字のMラインの試作機です。”まんましん”とか、”まるちぷるめいど”とか”まにゅふぁくちゅあめかりーた”とか、意味はいろいろあるみたいですけど、実はきちんと決まっていないんです。結構いいかげんですよね。ちなみに『ox(マルバツ)』は、わたしの情報処理方法の名前で、2つの独立したCPUがそれぞれに情報処理、推論、行動するように設計されているんですけど、そのCPUの一つが『マル』でもう一つが『バツ』と呼ばれてることに起因しているんですが、そんなわけで、まあなんだかんだと申しましたが『MM-ox(大文字でMの2乗マルバツ)』と呼んでいただければ、他のロボが間違えて返事することもないので、非常に便利でおすすめ的といえまするる」(下線部は中略箇所)
となっている。なお、このMM-oxを演じているのは小泉ボビン。


  「(長い話)」「(以下略)」「(中略)」演出の嚆矢は、管見のかぎりでは、プロトタイプとしては『腐り姫』の「あなたの隣にハリケーンミキサー」(ラジオ音声という形態で)、そして現在我々が知るような正式(?)な形としては『しすたぁエンジェル』(メムの長広舌)。いずれも2002年初頭の作品。翌年の『LEVEL JUSTICE』(リンザ博士の長い愚痴や涼屋綾菜のフラワートーク)も、独自に発想されたものだろうか。『ゆのはな』のイタリア海軍トークでも、この手法が多用されていた。かなり癖の強い演出だからか、この種の演出を実行している例は少ない。それに、せっかくの長台詞だったらテキスト上でもぎっしりと表示した方がインパクトが強いだろうという判断もあるのかもしれない。いずれにせよ、AVG特有のものであることは間違いない(――アニメだったら、長台詞を早回しで進めてしまう演出が、これに多少近い印象を与えるだろうか)。

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