2011年10月1日土曜日

演出論的覚書:Ⅳ章4節5款ε:ソフトウェア的拡張

  (ε)PCソフト特有の拡張性を活用するもの。

  追加パッチやアペンドデータによる機能拡張が行われることがある(註35)。例えば『夏ノ空』みるくそふと、2004年)の「しまぱんパッチ」、『皇涼子のBitchな1日』CODEPINK、2008年)の追加シナリオ配信、『LOVE&DEAD』の追加データ販売など。

  シリーズものの作品で、前作のデータを継承できる場合もある。『univ』カクテルソフト、「恋」編:2001年→「愛」編:2002年)、『マブラヴ』(無印→『オルタネイティヴ』)など。シリーズもの以外でも、自社作品等の特定のソフトウェアがインストールされている場合に特殊な変化を生じさせるものがある。例えば『Pure Mail』Overflow、2000年)は自社旧作がインストールされているとテキスト等に変化が生じる。非AVG作品にも同様の発想は存在し、例えばActGの『BALDR SKY』戯画、「Dive1」→「Dive2」:ともに2009年)にはデータ継承があり、またEscu:deでは『麻雀 英雄×魔王』(2006年)の麻雀パートに『ふぃぎゅ@謝肉祭』(2007年)のキャラクターを追加することができる。さらに、近時のlight作品は「アナザーストーリー」システムを実装しており、これによってユーザーは製品中の素材を用いて独自のシナリオを作成することができる(註36)

註35) 実例についてはErogameScape属性「拡張ダウンロードあり(有料)」及び属性「拡張ファイル/追加ファイルあり(無料)」を参照。近年では予約特典アイテムの形態を採ることも多い。
  この種の追加的機能拡張は、AVG作品だけでなくSLG作品においても行われている。例えば『ままにょにょ』alicesoft、2003年)の各種拡張プログラム(ユニット追加、マップ追加、機能拡張)、『戦国ランス(Rance VII)』alicesoft、2006年)の「拡張シナリオファイル」、『月神楽』Studio e.go!、2007年)の追加シナリオダウンロードサーヴィスなど。Studio e.go!Eushullyの作品には、シナリオ追加や機能拡張を可能にする「拡張パック」乃至「アペンドデータ」を原画集乃至ファンブックに収録しているものもある。

註36) Malie Systemエンジン。機能としては、一時期のPCゲーム二次創作で流行したDNMLに近いものである。類似のものとして、ウェブ上での企画『明日の君と逢うために』スピンアウト!がある。この発想をさらに極端にしたものとして、『佐野俊英が、あなたの専用原画マンになります』G.J?、2009年)がある。
  非AVG作品においても、リプレイデータ、キャラクターカスタムデータ、ユニット育成データ等の出力機能を設けることによって、ユーザー間のデータ交換手段を(明示的または黙示的に)提供している作品がある。実例としては、『BALDR FORCE』戯画、2002年)、『巫女さんファイター涼子ちゃん』すたじお緑茶、2006年)、『3Dカスタム少女』Tech Arts3D、2008年)、『Wizard's Climber』『勇者からは逃げられない!』ILLUSION、2009年)等がある。


  【追記コメント】

  メモ:wkpdの『PureMail』の項目によれば、「PC内に『ら〜じ・PonPon』がインストール済みでセーブデータが存在すると、テキストや展開が通常と変わる場合がある。また、エンディングにクレジットされている協力メーカー作品がインストールされていると、チャット中のアイコンが各メーカー作品の物になり、会話にもそれ関連の選択肢が出現する」とある。ウェブサイト「愚者の館」『PureMail』攻略記事にも「オーバーフローの『ら~じPonPon』、ニトロプラスの『ファントム』、アージュの『君がいた季節』『化石の歌』『アージュマニアックス』『マリーのおかたづけ』がインストールされていると、チャット時のデスクトップにそれぞれのアイコンが現れます」とある。

  SLG作品の『BUNNYBLACK2』(ソフトハウスキャラ、2012年)も、PCに前作『BUNNYBLACK』(ソフトハウスキャラ、2010年)がインストールされているとゲームスタート時に特典ユニット(前作登場の「マキ」「リズ」の2体)が追加される。

  これらは本編タイトルの存在が続編タイトルの内容に影響する例だが、続編(FD)タイトルの側が本編タイトルに逆影響するタイプの作品も存在する。FD作品『すまいるCubic!』(ABHAR、2010年)には、先行する本編タイトル『水平線まで何マイル?』(ABHAR、2008年)のアペンドデータが同梱されており、これをインストールすると本編タイトルに内容が追加されるとのこと(――これは『すまいるCubic!』製品版マニュアルに書かれているが、実際に試してはいないので、どのような内容であるのかは知らない)。

  PCゲームに関しては、このような"PC"ソフトウェアとしての技術上の拡張可能性の観念と並んで、そもそも"ゲーム"のその都度の成り立ち(すなわち進行乃至現前)それ自体がプレイヤーの協働を必要としているという構造上の前提条件――囲碁将棋にせよTRPGやPBMにせよ――の下で、原理上、ゲーム内容に対するユーザー(プレイヤー)の参加の余地が大きく開かれているという性質があると考えられる。それゆえか、この分野においても様々なユーザー参加企画が行われてきた:『M×S』「おっちゃんボ集」(SLGパートの客のプロフィールを募集した)、『超昂天使エスカレイヤー』怪人募集企画『CANNONBALL』Liar-soft、2003年)におけるバナースポンサー募集企画(作中のチームの「スポンサー」としてゲーム中にロゴ等を掲載できる)、『魔界天使ジブリール』シリーズにおけるシチュエーション募集(第2作:2005年)および幕間シナリオ募集(第4作:2010年)、『皇涼子のBitchな1日』における学生出演キャンペーンなど。
  とまあ、一応こういう書き方は出来るだろうか。……って、あれ、『エスカレイヤー』の怪人募集企画って実際にゲーム本編に登場させてくれるんじゃなかったのか。記憶違いだった。あと、バナーキャンペーン等の参加企画でクレジット(エンドロール)に名前を掲載してもらえるものがいくつかあるが、本論の趣旨からは逸れるうえ、本編の内容と無関係な情報をエンドロール上に延々と流すことによって作品の読後感を著しく損なうという点において、個人的には論外と判断している。

  上記の他、ネットワーク機能を利用したものもある。追加シナリオのネット配信を行ったタイトルがいくつもあるし、インターネットランキングシステムを導入したブランドもある(――『SinsAbell』[すたじおみりす、2002年]、でぼの巣製作所『神楽』シリーズなど)。『いたずら姫』(フェアリーテール、2002年)にはネットワーク接続を利用したメカニズムがあったらしいし、最近では『らぶデス555!』TEATIME、2010年)のインターネットオンラインマルチプレイや『ランス・クエスト(Rance VIII)』alicesoft、2011年)のネットワーク機能も話題になった。GIRL'S SOFTWAREのタイトル(『淫獄の館』だったか)にもインターネット対応機能があった。また、上記『らぶデス555!』やMOONSTONE作品(2010年の『Angel Ring』以降か?時期は未確認)など、twitterクライアント機能を組み込んだものもいくつか現れた。古い例だと、『Choir』(Rateblack、2001年)ではオンライン対戦ができたようだし、メール(を模したオンラインデータ交換)機能を実装したタイトル――伝聞だけで、タイトルすら失念した(F&C系列だったと思う)――もたしかあった筈。
  2008年当時はこうしたネットワーク機能の強化という方向性はほとんどまったく顧みられていなかった――基本的に単独プレイヤーゲームであるという性質、そしてアダルト商品であるという性質もあり、そうした試みはネタか冗談としか受け取られなかった――ようだが、時代の流れは大きく変わってきている。ただし、2011年時点での診断としていえば、ネットワーク機能を活用できているのはもっぱらSLG作品――なかでもプレイヤーによって結果の大きく異なるもの――と3D作品の2分野のみであって、読み物志向のAVGにおいては成功例はいまだ皆無に等しい。上記のtwitter連動機能も、管見の範囲ではほとんど流行もせずろくに顧みられないままあっという間に終息していったようだ。もう一つのあり得る方向性として、「エロゲー大戦!」のような純然たるオンラインゲームの道筋が現れているが……。いずれにせよ、これらを本文に加筆すべきかどうかは迷っている最中。

  追記。本文の註36でリンクした『明日の君と逢うために』スピンアウト!は、現在では『秋色恋華』及び『未来ノスタルジア』(2011年)の素材も加えて「パープルソフトウェア・スピンアウト」として運営されている。システムとしては、「ノベラル」に依拠しているとのことで、Chuablesoftもこれを用いたサービスを展開している模様(リンク:「Sugar+Spice スピンアウト!」及び「Sugar+Spice2 スピンアウト!」)。 [ cf. http://twitter.com/Naisy0/status/139085887291142145 ] 参考までに「アール18 レボリューション・エイティーン」公式サイトにもリンクしておく。

  すたじおみりすの『SinsAbell』は、同ブランドの『月陽炎』(2001)と『いたじゃん』(2000)、それから『行殺新選組ふれっしゅ』(Liar-soft、2002)がインストールされていると、それぞれ主人公「当麻聖」用の武器がボーナス入手できるようだ。

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