2011年10月1日土曜日

演出論的覚書:Ⅳ章4節3款β:テキスト

  (β)テキストワークそれ自体に関しては、一般的な修辞技法及び構成技術のほとんどが、AVGにおいても利用されうる。ただし、AVGにおけるテキストの地位及び機能は、小説(:書籍)、脚本(:演劇)、字幕(:映画)、ネーム(:漫画)のいずれとも異なる。とりわけ、PC用AVGに特有の外形的条件としてはクリック等によるページ送り進行が考慮され、またAVGのプロットに関しては複数の分岐展開の存在が考慮される(cf. 本節4款)。

  それとならんで、文字列を視覚的に利用する一種のタイポグラフィデザインが、PC用AVGにおいてもしばしば実践されている。有名な実例として、『沙耶の唄』nitro+、2003年)における判読不能文字列や、菅宗光(む~む~)『BE-YOND』シルキーズ、1996年/elf、2000年)で用いた文字アニメがある。菅は、例えばフェイというキャラクターが犬の群に追われる様子を、テキストボックスに「犬犬犬犬犬犬 フェイ」のように表示した。顔文字の使用例もすでに存在する(――『蒼色輪廻』『プリンセス小夜曲』『残暑お見舞い申し上げます。』めろめろキュート、2008年]など)。『タナトスの恋』Red Label、2003年)は、この発想をゲーム攻略上のトリックとして用いた(――「折句(縦読み)」の使用)。低年齢キャラクター等の台詞が平仮名のみで記されるのも、『魔法少女アイ』colors、2001年)を初めとして、実例は多数に上る。これら以外でも、スペースやテキストボックス内改行による文字表示位置の演出的調整は頻繁に行われている(註27)

  二度目以降のプレイで、テキストに変化が生じたり追加選択肢が発生したりすることも、稀ではない。いわゆるループものの作品においてそれが顕著であり、そのコンセプトを突き詰めた一例として『夢幻廻廊』Black Cyc、2005年)がある。ほぼ同一の事象継起が、一度目はただ単に表面的に描写され、そして二度目はその凄惨な実像が詳細に描写された。複数のストーリーが並行的に展開するザッピング型構成の作品(例えば『わーきんぐDAYS』Blue Impact、2001年])においても、シナリオαの進行状況に応じてシナリオβのテキストをその都度変化させる操作は、大きな効果を挙げうる。

  特徴的な語尾によってキャラクターに個性を付与する手法――台詞の話者を識別させるための手法でもあったと思われるが――はすでに廃れたが、口癖や決め台詞は、キャラクターを特徴づける一手段として現在も時折使用されている(註28)

註27) 文字の視覚的造形を利用するのは逆に、マークを文字として使用するものもある。汗マークや青筋マークを文中で(句点乃至感嘆符の代用のように)使用することは、AVGのテキストにおいては稀ではない(――代表的なのがF&C作品)。武藤礼恵のように文末ハートマーク「♥」を多用するライターもいる(――『恋する妹はせつなくてお兄ちゃんを想うとすぐHしちゃうの』CAGE、2003年]、『はちゅかの』めろめろキュート、2006年]、『ツイ☆てる』C:drive.、2007年]など)。

註28) 実例についてはErogameScapePOV「変な口癖」を参照。


  【追記コメント】
  メッセージウィンドウを一息でぎっしり埋め尽くす饒舌表現(あるいは早口台詞の表現)も、 あるいは逆に「ん」「や」といった極端に切り詰められた台詞でも一クリック分の単位を構成するのも、AVGならではの特質だろう。というか「ん」(『MERI+DIA』のシータ)も「や」(『えむぴぃ』のこよみ)も「ん。」氏のテキストか。さすが「ん。」氏。


『BE-YOND』 (c)2000 elf

犬の群に追われるキャラクター「フェイ」を、このような文字アニメでも再現してみせるというユーモラスな場面。同様に、巨大宇宙艦「鳳凰」に接近しようとするキャラクター「エバ」の図を、

 鳳凰 . ←エバ

(ピリオドが豆粒のようなエバを示している)のようにテキストで表示するシーンなどもあったと記憶する。

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