(α)テキストの表示形態は、AVGにおいても意欲的に開拓されている表現要素の一つである。たとえば通常の会話シーンでは画面下部のメッセージボックスにテキストを表示し、主人公の内面描写や回想シーン等に際しては全画面テキスト表示(いわゆるヴィジュアルノヴェル型)に切り替えるといった表示方法の柔軟な変更も、パソコン用AVGに特有のものである。なかでもテキストの縦書き表示は、PC媒体においてはそれ自体個性的な視覚的演出となりうる(註25)。
固有の辞書機能を備えることによってシステマティックに拡張的多層的なテキスト表示を行う作品もある(註26)。本編中のテキストに対してポップアップやリンクによって注釈的な説明を提供し、あるいは用語集コーナーを別途設けるものである。3章2節6款で述べたメッセージウィンドウ多重表示も、これと関連する技法である。
フォント操作、すなわち表示される文字そのものに対する装飾も行われている。キャラクター毎に文字色変更する手法は現在では広汎に普及しており、大声等を表現する拡大文字表示もしばしば行われている。また、Leafが「ビジュアルノベル」シリーズで採用した独自フォントはつとに知られている(――独自フォント使用は、『ティンクル☆くるせいだーす』も実行した)。複数の書体フォントの使い分けについてはLittlewitchとTriangleが代表的である(――前者は、その都度の話者や感情に応じて様々なフォントを使用している。後者の作品群は、地の文をゴシック体で表示し台詞部分を明朝体で表示している)。文字が画像形式で表示される場合もある。例えば冒頭のエピグラフ的テキスト、アイキャッチや章タイトル、擬音の文字表示など。画面内に映り込む新聞紙や携帯画面などのかたちで文字情報がプレイヤーに提示される場合もある(――『しすたぁエンジェル』、『よつのは』など)。
改ページのテンポを意識したテキスト表示制御も、AVGテキストの文体造形にとっては重要である。クリックによる改ページの間隔(換言すれば、一ページで表示する文章量)によって、時には韻律感を強調し、時には速度感を表現する。あるいは音響及び画像に関するスクリプトワークと協働して、物語進行に様々な効果(緩急の抑揚、転換や断絶、あるいは停滞や衝突等々)をもたらす。また、特定の箇所でテキスト表示速度にウェイトを掛け、あるいは一時的にオート進行にしてその箇所を際立たせるといった操作も、AVGにおいては実行可能である。
テキスト表示モード切り替えを可能にしているものがある。『HUSHABY BABY』(alicesoft、1999年)及び『妻とママとボイン』(G.J?、2006年)には関西弁モードとの切り替えがあり、『銀色』(ねこねこソフト、2000年)には英語モードとの切り替えがあった。前二者は遊戯的な実験作と思われるが、後者の制作意図は不明(――海外展開を予定していたのであろうか?)。『仏蘭西少女』では、中国語台詞の箇所を中国語表示するか日本語表示するかを選択できる(――それに伴って音声も切り替わる)。
註25) テキストを縦書き表示する作品は前世紀にも存在したが、今世紀の実例としては、『降魔録』(たまソフト、2001年)、『パンドラの夢』、『水月』、『白い蛇の夜』(鱚、2003年)、『緋の月』(みるくそふと、2003年)、『こなたよりかなたまで』(F&C、2003年)、『Happy Planning』(ユノ、2004年)、『妖刀事件』、『霞外籠逗留記』(raiL-soft、2008年)、『Garden』(CUFFS、2008年)、『タペストリー』、『紅殻町博物誌』(raiL-soft、2009年)、『装甲悪鬼村正』(nitro+、2009年)、『アトリの空と真鍮の月』(TOPCAT、2009年)があるとされる。さらに『奴隷介護』(シルキーズ、2001年)、『らくえん』、『いつか、届く、あの空に。』(Lump of Sugar、2007年)、Innocent Grey各作品にも縦書き表示シーンがあり、主として主人公以外の視点での描写を行う際に用いられている。 註26) 辞書機能を搭載した作品の実例として、『二重影』(ケロQ、2000年)、『うたわれるもの』、『水月』、『最果てのイマ』、『蠅声の王』、『Scarlett』、『水平線まで何マイル?』、『姫巫女 繊月』(縁、2008年)、『ファンタジカル』(UNiSONSHIFT、2008年)、『ステルラエクエス』(C:drive.、2008年)、『蒼海のヴァルキュリア』(anastasia、2009年)がある。キャラメルBOXは『処女(おとめ)はお姉さま(ボク)に恋してる』(2005年)及び『終末少女幻想アリスマチック』(2006年)においてこの種のシステムを導入しており、Chienも『委員長は承認せず!』(2006年)及び『冷徹冷静しかしてXXX!!』(2008年)で採用している。『サフィズムの舷窓』(Liar-soft、2001年)、『復讐の女神』、『殻ノ少女』といった推理要素のあるAVG作品には、登場人物のプロフィール情報や証拠品等が記される手帳機能がしばしば付随する。『斬死刃留』(Amolphas、2009年)にも、人物、地理、用語の情報閲覧機能がある。その他、SLG作品のアイテム管理インターフェイス等が実質的に辞書相当の作用を果たしている場合もある。 |
【追記コメント】
『霞外籠逗留記』 (c)2008 raiL-soft
冒頭部分。縦書きモード(上図)と横書きモード(下図)をユーザーは任意に変更することができる。ただし、ゲーム画面自体が横長であるという都合もあり、実際にはほとんどのユーザーが縦書き表示を選ぶことになるだろうが。
raiL-softは、この仕様を「V=R(ヴァリアブルリード)システム」と呼称し、その後も各タイトルでこのシステムを実装している。
『終末少女幻想アリスマチック』 (c)2006 キャラメルBOX
通常進行の最中に、註釈テキストがポップアップ式に表示されるタイプ。
『蒼海のヴァルキュリア』 (c)2009 anastasia
ポップアップ方式ではなく辞書モードが別途存在して個々の項目を開いて読める形態もある(――本編プレイ中に閲覧可能)。この作品には、人物情報(上図)と専門用語一覧(下図)がある。画面右側の人物立ち絵は、下部ボタンで簡単な差分切り替えができる。
『斬死刃留』 (c)2009 Amolphas
通常進行中に註釈が直接ポップアップしないタイプでは、辞書に新たな単語登録されたことを示すサインが表示されるのが通例である(――図では、画面左上にメッセージが現れている)。左上の円形アイコンをクリックすると辞書モードに移行することができる。
『Scarlett』 (c)2006 ねこねこソフト
テキストボックス右端の「Cyclopedia」欄をクリックすると、辞書ページの該当部分が開かれる。図は、※印の付いた言葉「ベレッタM92F」が辞書登録されたところ。
『しすたぁエンジェル』 (c)2002 Terralunar
主人公が新聞を読みながら朝食を摂っているという場面で、他のキャラクターとの会話が進行しつつその背景にはこの画像が背景画像として表示されている。登場人物たちはこの紙面の内容には言及しないまま物語が進行するが、プレイヤーはこの画像から作品の世界設定を読み取ることができる。
『ましろ色シンフォニー』 (c)2009 ぱれっと
背景画像ともイベントCGとも言いがたい、中間的な特殊画像。友人から届いたメールの文面がテキストボックス上でいちいち読み上げられることは無いが、プレイヤーはこの画面から「隼太」という友人の存在、隼太の性格の一端、そして彼等の今後の成り行きなどを窺い知ることができる。
リンク:Lilian公式サイトの『ティンクル☆くるせいだーす』システム紹介ページ。オリジナルフォントの紹介のほか、バトルパートのシステム紹介やBGMサンプル紹介なども含まれている(※注意:左記リンク先にはアダルト画像も掲載されている)。
FONTWORKSなどの独自フォントを組み込んで使用するタイトルも増えてきた。歴史上、先鞭を付けたのはLeaf、LW、pajamas softだろうか。最近では『恋と選挙とチョコレート』(sprite、2010年)の手書きフォントも、かなり注目を集めていた様子(――私は買っておらず実際には確かめていないが)。なかでもLeafはそのキャリアの初期から一貫してフォント使用に対してきわめて意識的であり続けているブランドである。初期LVNSの「リーフフォント」はもちろん、その後も作品毎に組み込みフォントをしばしば使用している。――『鎖』(2005年)のあの丸ゴシック体は、緊張感に満ちたサスペンス状況とそこから脱力させるようなユーモラスなテキストとのギャップをうまく埋めていたように思う。
実例紹介のメモ:[ http://twitter.com/wtnbgo/status/153508219338240001 , http://twitter.com/wtnbgo/status/153509663705530368 / http://twitter.com/Naisy0/status/153642083654180864 ]。言及されているLeafのDynafont使用というのは『Routes』(2003年)のことかと思われる。
2010年以降で縦書きテキスト表示を採用したタイトルとしては、『信天翁航海録』(raiL-soft、2010年)と『神咒神威神楽』(light、2011年)がある模様。
非人格的な「辞書」機能とは異なって、キャラクター間会話の形式での様々な余録的説明が挿入されるタイプのものもある。例えば『恋神』(PULLTOP、2010年)では、本編中の随所に「おしえて神様!」コーナーがある。これは、特定の箇所で画面内に「おしえて神様!」のマークが現れ、それをクリックすると幕間的な会話に切り替わるというものである。会話シーンは、通常のゲーム進行とは異なるものであることを示すために、SDキャラクターたちによって表示される。「おしえて神様!」マークをクリックしなければ、その部分は無視して本編をそのまま進めていくことも可能である。
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