2011年10月1日土曜日

演出論的覚書:Ⅳ章4節3款γ:発話者欄、名前変更機能

  (γ)その他。発話者欄が表示されうるのもAVGの特徴であり、そしてここにも(しばしば遊戯的な)仕掛けが組み込まれ得る。メッセージボックスの名前欄を、本人の名前以外のもの(例えばその時点で主人公が認識し得た暫定的な人物像や、当人の嫌がる渾名など)へと勝手に書き換えてしまうものがその代表的な用例であり、とりわけ丸谷秀人J・さいろーが好んで実行している(――『奥さまは巫女?R』pajamas soft、2004年]、『ゆのはな』『CloverPoint』Meteor、2007年]など)。コント的演出に用いられるのが通例である。同様に、地の文(あるいはナレーションテキスト)についても、AVGに特有の表現技巧を凝らす余地がある。そのほか、メッセージウィンドウに関しては3章2節6款を参照。

  主人公やヒロインの名前を任意に設定できる名前変更機能は、デジタルメディアならではの柔軟性である(註29)。名前以外にも、主人公の好きな食べ物や生年月日などを自由に入力させるという着想は、PCゲームにおいても家庭用機ゲームにおいても古くから知られており、そして度々実行されてきた。テキストの特定フレーズを任意の文字列へと自動一括置換する操作は、書籍媒体ではほぼ実行不可能である。口頭媒体であるTRPGでも同様のことを行いうるが、PCゲームにおいてはその処理が完全に自動化されているという長所がある。ただし、音声表現と抵触するという問題はある。


註29) ErogameScape属性「主人公の名前を変更可」と並んで、名前変更可ゲームスレまとめが多数の実例を挙げている。なお、PCゲーム以外の媒体での例としては、ウェブ上で公表されているいわゆる「ドリーム小説」――JavaScriptやcookieを用いて登場人物の名前等を任意に変更できるウェブ小説――もこれと同じ発想に立つものと言える。




  【追記コメント】


『奥さまは巫女?R』 (c)2004 pajamas soft

(図1:)画面のキャラクターは、自分では「メロディ」と名乗っているが本名は「白倉音代」といい、主人公はしばしばこの点をからかって「音代」と呼ぶ。その際には発話者欄(名前表示欄)もこのように「音代」に変えられてしまう(――さらに、この画像では作中キャラクターのメロディ自身が発話者欄の存在に言及している)。

(図2~4:)ヒロイン「アキラ」の初登場シーン。乗り込んできた彼女がまくし立てている間、発話者欄にその名前がすぐには表示されず、彼女に対する主人公自身の認識乃至感想が次々に表示されていく。

  名前欄の文言は、図4以降、「なぜかずっとクラスメート」→「恐竜が好きで」→「強烈なパンチをもつヤツ」→「これでも性別は女」→「名前はアキラ」と続き、この十クリック弱の連続台詞を経たうえでようやく「アキラ」という名前が発話者欄に記載されるようになる。

  クリック進行に応じて、テキストボックスに表示される女性側の台詞と、発話者欄を利用した男性主人公側のモノローグとが、同時並行的に進んでいくことになる。発話者欄を利用した主人公の韜晦的述懐の介入によって彼女の名前が明かされる瞬間が遅延され続けるというユーモラスさだけでなく、発話者欄が本来の目的を逸れて使用されるという見た目の奇抜さ、そしてテキスト二重進行のダイナミズムとそれによる痛快な速度感をもたらす秀逸な演出である。

『愛cute!キミに恋してる』 (c)2004 ぱれっと

  ゲーム開始時に、主人公の名前をプレイヤーが入力することになる。このようにデフォルトの名前が用意されている場合も多い。
『Garden』 (c)2008 CUFFS

  このブランドの『さくらむすび』(2005年)及び『ワンコとリリー』(2006年)は、音声無しであったため主人公の名前を変更しても音声出力上の支障は生じなかったが、『Garden』では主人公以外のキャラクターに音声が付いた。


リンク:ウェブサイトloveless zeroの記事名前と感情移入度の関係を考えるが、名前入力システムの持つ作用についても言及している。

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