演出強化とは逆に、コンフィグ等によって画像表示の抑制やイベント発生の回避が為される場合もある。それらの作品では、過激描写(レイプシーン等)、残酷描写(暴力シーン等)、醜悪描写(汚物等の不快表現)等のフィルタリングをプレイヤーが選択できるようにしている(註40)。これらの表現抑制機能は、過激表現の存在をプレイヤーに警告し、かつその表現レベルをプレイヤーが選択できるようにする点に意味がある。そして、そのような事前の警告と選択の余地を――つまり、いわばオプショナルなゾーニング手段を――提供することによって、プレイヤーは自らが望むかたちに作品を最適化させて享受できるようになるし、また制作者はいっそう過激な(自由な)内容を含む作品を商業的に成立させ得る可能性を確保する。
通常の性描写に関しても、アダルトシーンの一部を本編外に分離している作品がある。例えば『プリンセス小夜曲』や『Dancing Crazies』の場合には、物語本筋の流れを途切れさせず円滑に進行させるための配慮(消極的な演出)と思われるし、他方で『バルバロイ』(xuse、2004年)や『Chu×Chuアイドる』(UNiSONSHIFT、2007年)の場合には、ボーナスイベント(おまけサービス)としての性格が強い(註41)。『うちの妹のばあい 純愛版』(イージーオー、2007年)の外伝シナリオや『はなマルッ!2』(TinkerBell、2008年)の「if」シナリオのように、本編シナリオとは趣の異なるシーンをパッケージングしている場合には、過激イベントの選択的回避としての側面もあるだろう。
註40) この種のフィルタリング機能を搭載している作品の実例として、以下のものがある。 過激性描写または特殊嗜好の性描写に関して。『See In 青』(alicesoft、2000年)では、レイプシーンの発生を許可するか否かをあらかじめ概括的に選択できる。『奪還機構ラヴネイティア』(TEAM暗黒媒体、2003年)にも凌辱ON/OFF機能がある(――ONモードではその過程が詳細に描写され、OFFモードの場合は代替的なイベントが発生する)。『BALDR FORCE』は、アイテムフラグによって過激なアダルト描写を選択化している。『大好きな先生にHなおねだりしちゃうおませなボクの/私のぷにぷに』(CAGE、2004年)には「♂スイッチ」機能があり、これを切り替えることによって同性愛シーンを回避することができる。『斬死刃留』の「凶見システム」の下では、悦楽系シーンへ進むか痛苦系シーンにするかをプレイヤーがその都度選択できる。 残酷描写やグロテスク描写に関しては、例えば『3 days』はスプラッタ画像に対する抑制コンフィグ「Blood Limiter」を設けており、『ゴア・スクリーミング・ショウ』(Black Cyc、2006年)にも同趣旨の「GFL(Gore Filtering Level)」がある。さらに『沙耶の唄』にもグロテスク画像をオフフォーカスにしまたは明度低下表示させるコンフィグがあり、『マブラヴ オルタネイティヴ』もグロテスク画像の「視認性を大幅に下げる」ことを可能にする修正パッチを公開した。 汚物描写(排泄物等)に関しては、『はなマルッ!2』にON/OFF機能があり、また『借金姉妹』(selen、2007年)も非公式対応ながら汚物描写をカットできるパッチを配布した。このほか、『クラス全員オレの嫁』(MBS Truth、2008年)の断面図ON/OFF機能や『学園催眠隷奴』(シルキーズ、2008年)のアヘ顔ON/OFF機能の場合は、前記の特殊嗜好の性描写の側面も持つが、それと同時にユーザーのセンシビリティ(不快感)に対する配慮にも基づくと考えられる。 註41) 「おまけシナリオ」において内幕トークや冗談シナリオを披露するのも、パソコン用AVGが育んできた微笑ましい文化の一つである。歴史上有名なのがLeafの『雫』(1996年)及び『痕』であるが、その他にも『果てしなく青い、この空の下で…。』の後日談シナリオ、朱門優の手掛けた『蜜柑』(C's ware、2001年)及び『いつか、届く、あの空に。』のおまけシナリオ、『腐り姫』の一連の「狐の嫁入り」シナリオ、Purple software作品の「なぜなに」シリーズ、キャラメルBOX作品のnkmrモード、ソフトハウスキャラ各作品のおまけシナリオなど、枚挙に暇がない。同様に、ゲームディスク内にエクストラデータが収載されている場合もある(――制作スタッフのあとがきコメント、壁紙集、システムヴォイス集、自社旧作の修正パッチ集、次回作を告知する宣材ファイル、おまけムービー等。CD-DA音源の時代にはシークレットトラックもあった)。 |
【追記コメント】
リンク:Lassの『3days』リミッター機能紹介ページ(※注意:グロテスク画像へのリンクが含まれる)。
この種のコンフィグの例は多数に及ぶため紹介しきれない。例えば『ぼくのむしかご』には、 虫をシルエット表示にするコンフィグがあるらしいが、未プレイ。風変わりなタイプとしては、『蠅声の王』は、細かなパラグラフ選択によって進行するデジタルゲームブック型タイトルであるが、残虐表現を含むパラグラフに入る前に「制限版(モザイク使用)」と「無制限版」のいずれかを事前選択できるという箇所がある(――モザイク処理の有無以外は、同一内容)。珍しい(?)例では、局部等の隠蔽方式を選択できるコンフィグを搭載しているタイトルもある。『脅迫』では、隠蔽方式を「モザイク」「黒塗り」「白塗り」あたりから選択できたと記憶している。
当然ながらこの一節には政治的な含意もある。
近年の最も代表的なものは、Amolphas/KAIの「ラプラス・ビジョン」システムだろう。これは、戦闘敗北後に敵キャラクターから蹂躙を受けるアダルトシーンに入る際に、「快楽(ソフト)系/痛苦系(ハード)系」の分岐が用意されており(選択肢もそれぞれの方向性を明示している)、プレイヤーは自分の好みに応じていずれかを選べるというものだ。CGコンプリート/回想コンプリートのためには、結局両方を選ぶ必要があるのだが、「選択の機会」あるいは「事前の警告」としての意味はある。もちろん、多様な嗜好に合わせたシーンの増量という観点でも。
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