――シナリオ分岐とそれをもたらすフラグ構造の一側面についての検討――
Ⅰ.エンディング配置の類型論
Ⅱ.エンディング配置の概念論
Ⅲ.エンディング配置について語ることの意義 ; 攻略との関係
Ⅳ.従来の議論 : 「複数ルートの組み立て方」について
Ⅰ.エンディング配置の類型論
ゲーム進行の枝分かれをさしあたりエンディング(終点)単位で捉えるとして、それら複数のEDにどのような順序で到達できるかを考えてみると、雑駁に以下の4タイプに分類できるだろう。
1)単一EDタイプ。
EDそれ自体は単一である、つまり一つしか存在しないという場合。しばしば1-a)「一本道」シナリオと呼ばれる。ただし、本編中にはいくつものイベント差分を含むのが通例であり、EDイベントそれ自体も比較的小さな差分変化を持つことがある。そうしたEDの差分変化をどこまで重要視するかによって、単一EDなのか分岐EDであるのかについての受け止め方が異なる可能性がある(――場合によっては下記のタイプ3やタイプ4に分類されるのが適当と判断されることもある)。SLG作品に多い(例:『うたわれるもの』)が、AVG作品にも存在する(例:『マブラヴ オルタネイティヴ』)。
1-b)中途脱落的EDを含む場合は、他のタイプに似通ってくる場合もある(Bad ED包含型)。それらの中途EDを「単なる失敗(バッドエンド)」として受け止めるか「正式な分枝EDの一つ」と見做すべきかは、他の条件――例えば「エンドロールが流れるか」「専用一枚絵が用意されているか」「観賞モードが開放されるか」など――を考慮して判断すべきであろう。大量のBad ED(=アダルトシーン)を含みつつ、正規のエンディング(エンドロールの流れるED)はたった一つに帰着するというパターンは、近年ではAmolphas/KAIに典型的である(『斬死刃留』『リヴォルバーガール☆ハンマーレディ』)。『淫妖蟲』シリーズ(Tinkerbell、2005/2006/2009)もこれに近い構成を採っている。
2)最終EDタイプ。
中継点的エンディングが複数存在するが、全体としては進行順序(ED到達順序)はおおむね固定されており、最終的に単一のEDに帰着するというタイプである。
2-a)事実上直線的に進行するループシナリオAVGは、しばしばこの体裁を採る(例:『パンドラの夢』『夢幻廻廊』)。最終EDタイプのオーソドックスな類型の一つである。その固定性が(フラグ/脚本/システムにおいて)十分に強い場合には、上記タイプ1と見做される余地もある。
2-b)もう一つのタイプとして、最終EDがシステム上明確に分離されているパターンもある。例えば、グランドフィナーレに当たるイベントが本編から分離された「おまけ」欄に出現し、あるいは本編の全EDに到達した瞬間に自動的にグランドフィナーレイベントに接続する、といった構成を取る。『とっぱら』『片恋いの月』のような純愛系AVGと見做される作品にも存在し、またSF作品(例:『R.U.R.U.R』)やSLG作品(例:『あかときっ!』)にも存在する。
3)序列づけタイプ。
EDは複数存在するが、部分的にロックが掛けられている、という場合も少なくない(――システムデータ[グローバルフラグ]による制御)。例えば「エンディングXに到達していなければ、エンディングYへの道が開かれない」というような形式である。プレイヤーは、最初から任意のEDに到達できるわけではないが、ED到達順序は完全に固定されているわけでもなく、一定範囲の自由度がある(――順序が完全に固定されている場合は、上記タイプ2として扱われるべきである)。例えば「一度いずれかのEDに到達することによって、特定の隠しヒロインが攻略可能になる」というような局所的なロックの場合もあれば、「特定のEDのみが最後に回される」という場合(※上記タイプ2に接近する)もある。実例は多数に及び、フラグ構成パターンも非常に多様である。純愛系タイトルにも、個別ED間になんらかのかたちで構造的序列づけを設けている場合がある(例:『明日の君と逢うために』は3段階にルート開放していく。『ウィズアニバーサリィー』には隠しヒロインルートがある)。最後にいわゆる「ハーレムルート」が開放されるパターンも、この3)と2)の境界線上にある。いずれと見做すべきかは、フラグの挙動のみから決するのはおそらく適当ではなく、脚本(ストーリー内容)を考慮して判断する方が有益であろう。
4)完全並列タイプ。
複数のエンディングが並列されている。つまり、それらはすべて最初から完全に開放されており、プレイヤーは自己の選択によって任意の順序で任意のエンディングに到達することができる。各EDの間に同等のウェイトを与えることを意味するため、特に純愛系AVGではこれが通常形態となる。ヒロイン間の序列づけが忌避されがちであり、かつ、分岐シナリオ相互間での関連性(相互参照性)が比較的希薄になるため、プレイヤーに最大限の進行自由度を提供するシステムが最善とされるのであろう。
なお、ここでは到達可能なEDの順序のみを問題にしているが、個々のEDの間になんらかの仕方で到達容易性の優先順位のウェイトが与えられることはあり得る(――むしろ、そうなっていなければそもそも分岐が成立し得ない)。例えば『ヨスガノソラ』のフラグ判定において、「穹」ルートが最優位であり「初佳」ルートが最劣位である――ただしいずれのEDにも最初から到達することができる――という序列づけが存在することは、それ自体、当該作品のコンセプトや物語構成を受容/解釈/評価する際にも考慮されるべきである。
※複合型も存在する。これら4種のタイプが立体的に組み合わさる場合もある。例えば、複数主人公型作品で、各主人公シナリオの内部は単一ED進行である、といったような場合。
(左図:)エンディング配置のおおまかな模式図。
実際の作品のフラグ体系は通常、これよりも細かく複雑な構造を持っており、それゆえ左記のいずれか一つに決することが困難になる場合もしばしばである。
Ⅱ.エンディング配置の概念論
やや異なった角度から再整理することもできるだろう。例えば:
a)単一EDである。
b)複数のEDがある。
- b-1)複数のEDの順序が完全に固定されている。
- b-2)複数のED間の到達可能な順序が部分的に制限されている。
- b-3)複数のEDが、すべて任意の順序で到達できる。
このような4つのカテゴリーに分類することも可能である。
このように観念的に分類した場合、上記1~4の分類は、多少異なった境界線で分割される。すなわち:上記タイプ1はカテゴリーaに対応するが、BadEDを含む場合は他のカテゴリー(とりわけb-3)に算入することもできる。また、タイプ2の一部(自動ループ型)はカテゴリーb1に対応し、タイプ2の残り(グランドフィナーレ型)とタイプ3はカテゴリーb2に対応し、タイプ4はカテゴリーb3に対応する。
上記4種のタイプ分類は、実際のゲーム作品の実態に即している(つまりフラグとストーリーのありように近い)が概念的には曖昧さを残す分類であり、他方でこの4つのカテゴリー分類は概念的な明晰さを備えているが実際の作品の具体的形姿を説明するにはやや迂遠であろう。
カテゴリー | ED数 | ED順序 | タイプ |
a | 単一 | - | 1-a)単一EDタイプ(完全一本道型) |
b-1 | 複数 | 固定 | 2-a)最終EDタイプ(自動ループ型) |
b-2 | 一部制限 | 2-b)最終EDタイプ(グランドフィナーレ型) 3)序列づけタイプ | |
b-3 | 完全自由 | 4)完全並列タイプ 1-b)単一EDタイプ(BadED包含型) |
Ⅲ.エンディング配置について語ることの意義 ; 攻略との関係
比較的緩やかな序列づけが組み込まれている作品(タイプ3)や、全ての分岐展開が最初から完全開放されている作品(タイプ4)、つまりいずれにせよシステムそれ自体によってプレイヤーに一定の進行自由度が提供されている場合には、プレイヤーが選択肢決定等を通じてどのような順序でいずれのEDを閲覧していくかはそれ自体作品解釈の行為であり、そしてそれと同様に、クリアした後でどのような進行順序が良いかと考えることも、作品(ゲームシステム)の側からあらかじめ正当化された作品解釈の行為だと言うことができるだろう。クリアした後の感想テキストで「おすすめプレイ順(推奨攻略順)」を述べることは典型的にそれに該当するものであり、そしてそうした発言は単なるお遊びの駄弁ではなく、意味のある内容咀嚼活動として受け止められるべきである。
さらに、それと同様に、攻略ページ作成者がフローチャート等でプレイ順序を述べることもまた、十二分に――時として、感想を述べるよりも深く突き詰められた――作品解釈の行為である。どの選択肢を選ぶことを良しとするか、そして個々のEDにどのような名前(:「(ヒロイン)ED」「True ED」「Bad ED」等々)で記すかは、作品に対する攻略者の考えを――全体構成に対する理解を、作品コンセプトに対する姿勢を、個々のイベントに対する評価を――示している。
雑記欄(2013/03/01付)でも述べたとおり、攻略サイトというものに対して私はけっして好意的ではないが、しかしながらゲーム「攻略」情報を提示する活動にはこのような積極的側面があるということは閑却すべきではない。とりわけ分岐シナリオ同士が内容的に関連づけられている場合にそれらをどのように理解したか、あるいはあるエンディングに特別な重みを見出すか否か、あるいは内容が多方面に散らばっている(ように見える)作品を全体としてどのようなもコンセプトとして捉えるか、そして、攻略方針をどのように置いているか(、つまり攻略記事の目標をどのようにデザインしているか)。意欲と洞察力のある攻略ゲーマーたちはこうした判断を下したうえで攻略記事を構成している。
Ⅳ.従来の議論 : 「複数ルートの組み立て方」について
PCゲームにおける分岐構成の分類論としては、以前にも演出論Ⅳ章4節4款βで言及した「アルカナム電脳遊戯研究所」の記事「複数ルートの組み立て方」が代表的と思われるが、その分類には釈然としないものを感じていた――フラグ構造の次元と物語構成の次元とプレイ順序の次元が適切に分離されていない――ので、筆者なりの整理を試みてみた次第である。本稿が、物語内容に照らした分岐構造の次元をできるかぎり捨象して、形式的なED到達順の次元に議論を絞り込んでいるのも、そのためである。
「複数ルートの組み立て方」の整理は、おそらく経験的な分類に大きく依拠したものであり(そのわりに個別タイトルが一切挙げられていないが)、筆者の整理とはかなり異なる。双方を対比するならば、「組み立て方」論考のいう「拡散型」は上記タイプ3/4に対応し、「拡散型+補足ルート」はタイプ2-bにおおむね相当すると思われる。「拡散型+上位ルート」は、「上位ルート」がそのフラグ構成上、最後に到達される設計であれば、タイプ2になる。「収束型」は、おそらく一本道タイプ(1-a)のことを指していると思われる。「ルート順番指定型」は、個々の「ルート」がシステム上明確に分離されている場合には序列づけタイプや最終EDタイプになるが、連続性が強い場合にはタイプ1or2になる。「解法提示型」は、フラグ構成の説明ではなく物語構成の説明であるため、筆者の分類に当てはめることはできないが、「組み立て方」の著者自身はタイプ3/4のような構成を想定しているようである。
その他、web上での同種の試みとしては、「おにりんのほ~むぺ~じ」の「ノベルゲームのシナリオ型」(主にシナリオ分岐の観点での分類)、「Creation College OLD Version」の「AVGの型分類」(システムとフラグの次元を考慮した整理)、「Sou-Zou-Ryoku」の記事「分岐型アドベンチャーゲームにおけるシナリオ構造の比較」(実例検討)などがある。
(2013年3月10日:雑記欄にて公開。同年3月12日:単独記事化)
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