2011年9月25日日曜日

演出論的覚書:Ⅲ章3節1款:動画演出。Jellyfishとelf

  《第3節:動画使用演出》

  オープニング(OP)ムービー及びエンディング(ED)ムービーは、PCゲームに導入されるようになってすでに久しく、ムービー利用に関する意識は十分に成熟している(註12)。内容面では、アニメ並の動画表現を盛り込むものも現れており(註13)、また動画制作における素材制作及びVFX表現のための3D技術利用も広汎に普及してきた(cf. 4章5節1款)。OPムービーをどのようなタイミングで挿入するかについても様々な模索がなされているし、ルート毎(またはゲームモード毎)に異なったEDムービーを表示する作品もあり、さらにはOPムービーとEDムービーだけでなくストーリーの重要な節目に第三、第四のムービーを挿入するものもある。主題歌作曲者や主題歌歌手に注目が寄せられることも多い。

  そしてさらに、本編から分離されたオープニング及びエンディングとしてではなく、本編中の描写を構成する一部分としてムービー(動画ファイル)素材を使用するアプローチが近年現れている。本節ではこの手法について概観を試みる。


註12) PCゲームにおける動画使用は、一方で市場的事情としては広告手段としてのデモムービーによって後押しされ、他方で作品様式的事情としてはとりわけ主題歌の導入がOPムービーの採用を促進したものと思われる。デモムービーのウェブ配信も、2000年時点ですでに行われていた。『LoveMate』Mink、製品版は2000年4月発売)、『innocent Eye's』UNiSONSHIFT、2000年9月発売)など。ただし、当時は(ファイルサイズ減少のために)動画ファイルフォーマットではなくしばしば実行ファイルの形式が採られていたが。主題歌使用の比較的早期の実例として、『To Heart』Leaf、1997年)は著名である。詳細な資料はウェブサイトBANDiTの隠れ家の記事Adult Game Vocal Collectionを参照。
  OPムービー及びEDムービーは、通常は物語本編の叙述から分離された独立のパートと見做される(――実際にも本編中の画像素材等のパッチワークによって構成されるのが通例であり、本編全体の紹介的乃至要約的なイメージムービーとなっているのが一般的である)。しかし、OPムービーの内容が物語本編を描写する重要な一部分を成している場合があり、あるいはEDムービーが同時にエピローグの役割をも担っている場合がある。例えば『明日の君と逢うために』では、OPムービーの中に本編中では描かれていない重要な場面のカットが含まれており、また『SEVEN-BRIDGE』では、EDムービーで流れる映像群が後日談的風景を示唆するスライドショーを成している。

註13) OPムービーにおいて本格的なアニメーションを導入している作品は多数存在する。Littlewitchは2002年の『白詰草話』でこれを実行し、その後『聖剣のフェアリース』(2009年:Littlewitch velvetブランド)と『シュガーコートフリークス』においても再び採用している。このほか、Leaf『うたわれるもの』『Tears to Tiara』[2005年]、『To Heart2 XRATED』[2005年。※PS2版は2004年発売]、『フルアニ』[2006年]など)、alicesoft『超昂天使エスカレイヤー』[2002年]、『大番長』[2003年]、『ぱすてるチャイムContinue』[2005年]、『超昂閃忍ハルカ』[2008年])、ApRicoT『Maple Colors』『AYAKASHI』)、Escu:de『ジュエルスオーシャン』[2004年]、『ふぃぎゅ@メイト』[2006年]など)、minori『はるのあしおと』以降)、pajamas soft『プリンセスうぃっちぃず』『プリズム・アーク』)、Frontwing『ジブリール』シリーズなど)、Purple software『プリミティブ リンク』以降)など、意欲的なブランドが比較的早い時期から複数の作品でセルアニメ水準のOPムービーを制作している。



  (1)先駆的ブランド:Jellyfishとelf
  動画利用による演出強化に最も早期に着手したメーカーは、Jellyfishelfであろう(――前者は『GREEN』[1999年]と『LOVERS』[2003年]。後者は『BE-YOND』[WIN版:2000年]、『らいむいろ戦奇譚』[2002年])。elfは、3D素材をも利用しつつ、戦艦や宇宙船の戦闘シーンをムービーによって効率的かつ効果的に描写している。『恋ごころ』RaM、2000年)も、アニメーション演出の草分けに数えられるであろう。



  【追記コメント】

  参考リンク:ブログ立命館大学メディア芸術研究会の記事アダルトゲームOP論概説。近年の実例を参照しながら、3Dモデリング利用やアニメーション導入などを簡潔明瞭に概観している。

  主題歌使用についてはもっと遡るべきなのかもしれないが、とりあえず主題歌(の品質)が大きな注目を集めたという点で『ToHeart』を挙げておいた。ちなみに同年(1997年)発売の『Piaキャロットへようこそ!!2』も、個性的な主題歌「Go!Go!ウェイトレス」で話題になっていた様子。この時期はまだOPムービー(に当たる部分)は大部分がプログラム制御で動かされていた筈だが、そういえば「Go!Go!ウェイトレス」にはアニメーションも入っていたような憶えが……ああ、そうか、F&CにもアニメーションOPムービーはいろいろあったようだけど、残念ながら私にはどれがどうなっているのか調査しきれていません。『きゃんバニプル2』(1996年)あたりはwin98ですでにまともに動作しなくなっていたくらいだし、この時代の作品を今から発掘していくのは非常につらい。

  ブランド単位でみると、OPムービーのセル作画的アニメ導入はだいたいこんなところだろうか。細かくみれば、他にももっとある筈だけど。例えばageも2006年の『オルタ』でアニメーションOPを採用していた。Frontwingも挙げておくべきだったか(――『ジブリール』シリーズのOPアニメーションは、2005年発売のシリーズ第2作[主題歌"Little my star"]からかな)。最近では『グリザイア』[2011年]のOPも注目を集めていた模様。残念ながらこれまでFW作品にはほとんど手を付けていないが。……ということで一応加筆しておく。

  何故かは分からないけど、SLG系ブランドがしばしば早い時期から積極的にアニメOPを導入してきてのが見て取れる(――もしかしたら「SLG系ブランドだから」というのは今風のブランド分類の視点にすぎず、そうではなくて「2002年頃に有力だった大手ブランドはたいていSLG作品も手掛けていた」というだけのことかもしれないが)。あと、下段でも書いているように、Jellyfishも挙げるべきだろうか。ApRicoTのアニメ志向は本編の作りからしても自然なことと思われるが、しかしEscu:deがアニメOPに積極的なのは意外。といっても、OP全編がセル画調アニメーションなのではなくて、どれも部分的なアニメだけど。Escu:de作品の中で一番本格的なのは『ふぃぎゅ@メイト』のOPで、その最も有名なシークエンスはFD『ふぃぎゅ@謝肉祭』OP――あのいかにもAC-Promenadeな作りの――でも本歌取り的に再利用されている。『乙女恋心プリスター』(2010年)でも一部アニメのOPだった。

  この分野のデモ/OPムービーの傑作の一つとして今なお名高いのが、『いただきじゃんがりあんR』(すたじおみりす、2005年)の「ラブ・チート!」である。動画制作はエーシープロムナード/URA。幸いにも、現在でも「Holyseal」(→該当ページ)や「こころんにあるみらー」(→該当ページ)などのダウンロードミラーサイトから動画ファイルを入手することができる。――これも挙げていけばきりがないが。

  こういう「アニメ的」な品質の動画を「種類」として一般的にどう呼称すればよいのか、寡聞にして知らない。上記本文では「本格的なアニメーション」という最悪な表現をしてしまっているが。形状としては「(日本の地上波放映アニメや劇場アニメで通常見られるような)セル画アニメ」にほぼ等しいけれど、実際に制作素材としてセル画を使っているとは限らない。上記のような通常のアニメも現在ではデジタル作画に移行しているのだろうから、そのずれは細かく咎めるべきものではないとして「セル画(調)アニメ」と呼んでしまっても良いのかもしれな い。もっと厳密に捉えるなら、「主として2D作業での中割りコンテ作画を基礎とするアニメーション」というのがおそらく対象の形態及び外延をより正確に記述する呼称になるだろう。しかし、仮に「中割りアニメ」「コンテアニメ」という表現を考えても、そんな言い回しはほとんど見たことが無い。何か適切な――つまり正確な定義を伴って、広く認識され使用される――表現は無いものか。

  動画演出は、2008年当時はきわめて刺激的で大きな発展の可能性に満ちたアプローチであるように見えていたのだが、この3年の間にさして目立ちもせぬまま微温的に拡散し浸透していったように見受けられる。実際、いくつものブランドがこの(技術的にはたいして難しくもない)手法を採用してさまざまな形ですぐれた成果を上げてきたが、結局のところ立ち絵振り付け等に比肩するほどのAVG表現上のパラダイム転換にまでは至らなかった。

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