物語の舞台となる作中世界もまた、AVGの各種形成素材を通じて様々な角度から造形され表現され彩られる。音響面では、例えば洋館を舞台とする重厚な作品には荘重なオルガン曲や典雅なチェンバロ曲が似つかわしく(『化石の歌』[age、2000年]、『クロウカシス』[Innocent Grey、2009年])、また桜の舞い散る学園を舞台とする場合にはBGMでもSEでも琴の撥弦音が多用される(『桜吹雪』)。
テキストの文体及び語彙選択にも注意が払われ、例えば中世ファンタジー世界を描く際には近代的文物に関わる言葉(「ピストン」など)や特定の故事に基づく言い回し(「四面楚歌」など)は差し控えられがちである。
着彩の趣向もその都度吟味され、例えばカタストロフに直面する世界を描き出す際に、『SWAN SONG』(Le. Chocolat、2005年)のように明暗のコントラストを強調する重々しいCGワークもあれば、逆に『終末の過ごし方』(abogadopowers、1999年)のように淡彩のグラフィクスによって滅亡の虚無感を印象づけるものもある。
背景画像の重要性も、すでに述べたとおりである(cf. 3章2節3款の註10、4章4節1款β号)。背景画像等を実在の場所から取材することによってそのロケーションから描写のリアリティを汲み上げている作品もある(註20)。
註20) 現地探訪サイトが多数存在する。「舞台探訪アーカイブ」のリンク集を参照。 また、作中で明示的に実在地名を挙げている場合もある。例えば――『姦染』シリーズ:千台(=仙台)及び東京。『群青の空を越えて』:筑波(つくば)。『潮風の消える海に』(light、2007年):横浜市鶴見区。『マブラヴ』シリーズ:横浜、佐渡島など。『ホワイトブレス』(F&C、2004年):藤沢市。『姉、ちゃんとしようよっ!』(きゃんでぃそふと、2003年):鎌倉。『私立アキハバラ学園』(Frontwing、2003年):秋葉原。『おたく☆まっしぐら』(銀時計、2006年):秋葉原。『東京九龍』(JANIS、1999年):新宿ほか。『白詰草話』:新宿ほか。『Forest』:新宿。『カルタグラ』その他のInnocent Grey作品:上野など。『妖刀事件』(Liar-soft、2006年):渋谷。『らくえん』:練馬区。『東京封鎖』(C-side、2006年):東京。『はるかぜどりに、とまりぎを。』:東京。『聖剣のフェアリース』:東京。『松島枇杷子は改造人間である。』(Rateblack、2005年):群馬。『京都』(eLia、2000年):京都。『Lost Passage』(DEEPBLUE、2002年):京都。『大阪CRISIS』(つるみく、2009年):大阪。『ピリオド』:長崎。『キラ☆キラ』(OVERDRIVE、2007年):日本各地。『姦淫特急 満潮』(つるみく、2008年):日本各地。『斬死刃留』:日本各地。『ロンド・リーフレット』(Littlewitch、2007年):英国。『BITTERSWEET FOOLS』(minori、2001年):フィレンツェ。『水都幻想』(wing、2003年):ヴェネツィア。『魔都拳侠傳 マスクド上海』(Liar-soft、2008年):上海。『セイレムの魔女たち』(ruf、2003年):セイレム。『SEVEN-BRIDGE』:ユーラシア大陸各地。『Scarlett』(ねこねこソフト、2006年):世界各地。裏を返せば、大多数の作品は架空地名を舞台にしている。 |
【追記コメント】
最近の作品では、独自性をアピールするため(商品差別化のため)か、作品の舞台となる世界設定それ自体に特有の「趣向」を凝らすものが数多く現れている。萌え志向の分野においても、性描写重視の分野においても、それぞれおおまかに共有されるベース及び価値観が比較的強固に確立されているがゆえに、個々の作品はその枠内で――あるいは時にはその想定される枠組それ自体をも踏み越えて――強度にコンセプト主導的なものになっている。それら個々のコンセプトを適切に見て取り、それらの出来を――コンセプトの選択を、それがゲーム本編の中で具体化されていくあらゆる局面を、そしてそれらがいかにして一つの作品として統合されあるいは複数のものが衝突しあるいは開放的な状態に置かれているかを――しかるべく評価しつつ、同時にそれらの趣向を楽しんで付き合っていくのが、ゲーマーの「粋」というものだろう。
註20は、内容上はむしろ後のⅣ章3節4款で扱われるのが相応しい。
実在地名を舞台にしているタイトルも適当に列挙してみた(註20)が、どうだろうか。配列は日本国内(北→南)から諸外国の順番。WINTERS(『KISS』シリーズ)の北方領土ネタは、実際にプレイしていない――wkpd情報くらいしか持っていない――ので差し控えた。『ロンド・リーフレット』も、舞台が「英国」だということは判っているけど、作中で具体的な地名に言及されているのかどうかまでは知らない。ただ、国単位の大きな括りや出身地などの弱い言及までも認めてしまうと、「アメリカ人」、「中国人」、「ロシア国籍」、「神戸出身」(※『こみパ』の猪名川由宇。そういえば同ブランドの『ToHeart』の保科智子も神戸出身だったか)、「新潟出身」(※『とらハ2』の仁村姉妹)などもすべて挙げなければならなくなるのだが、ここでは英国という舞台そのものを十分な密度で描写しているであろうという想定の下に暫定的に『ロンド・リーフレット』のみは挙げておく。歴史ものもすべてオミット:『恋姫†無双』=2~3世紀の中国大陸、『行殺新撰組』=19世紀の京都など。『桜花センゴク』でも、作中で新潟等の実在地名が何度か言及される。『仏蘭西少女』(大正時代の東京)についても迷ったが、「歴史」カテゴリーとしてここでは挙げずに措いておく。上記『セイレムの~』も18世紀初頭の米国だけど、珍しい舞台なので例として挙げておく。そういえば『グリザイアの果実』はOPムービーで道玄坂2丁目などを吹っ飛ばしたりしていたけど、本編で実在地名として扱われていたのだろうか? 軽くggったかぎりでは、そういう様子は無さそうだが。『Palmyra』(桜月、2008年)の舞台はパルミラであるらしいが、実在のそれとして描かれているのかどうか分からないので保留。
なんにせよ、Liar-soft多すぎ。一般的な話をしている時に特定ブランドのタイトルばかりがしつこく挙がるのは好きじゃない。『ANGEL BULLET』(アメリカ西部)は架空都市なのでカット。『シャルノス』(ロンドン)及び『ソナーニル』(ニューヨーク)も現実のその都市と同一視することが困難なので割愛。このあたり、線引きの基準を明確にするのは至難だが。例えば、「なんで『マスクド上海』がOKで『シャルノス』がNGなのか?」と尋ねられても説明は難しい(――あえて言うなら、後者は桜井企画シリーズの一タイトルであって『セレナリア』『インガノック』等における架空の土地及び世界像と結びついているためただ「ロンドン」といっても虚構性が高いと見做されべきでろうから、というのは一つの答え方になるだろう)。
これらの他に、モデルとなった都市が明らかに推察できる作品も無数に存在する(例:『超時空爆恋物語』の舞台は「釜蔵」≒鎌倉。『アステリズム』の千関市[開発当初は「仙石市」]≒仙台市/石巻市)が、きりが無いので放っておく。
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